寅治郎トライのラジオブログ

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伊藤伸平「はるかリフレイン」読書感想文

どうも寅治郎トライです。

読書感想文を残し、恋人は行ってしまった。
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【はるかリフレイン】
こちらは伊藤伸平さん作による漫画です。1997、8年頃に進研ゼミ系のなんかの情報誌に連載していたそうです。漫画では高校生が主人公なのですが、媒体が進研ゼミということもあってか、今風のティーンを描く漫画にあるエロッ!グロッ!バイオレンスッ!的な要素は皆無で、ただだだ初々しい10代の恋愛心理、出逢いと別れが描かれ、切なく胸に語りかけてくる作品です。単行本一巻での完結なので、可愛らしくも不思議な儚さがあり、私は気にいっています。また単行本は長く絶版状態にあったようですが、2016年に復刊を遂げています。上の写真は単行本の表紙を写したもので、復刊前のものです。復刊後は新表紙になりました。

【青春の証明】
『はるかリフレイン』には人間観や人生観に関する、とある命題が埋め込まれている作品だと思います。予期せぬ不遇やアクシデントに出会った時、人はどういう態度を取るのか?という命題です。答えは主に『抗う』か『受け入れる』かの2つに別れると思います。どちらが正解とかありません。どちらを選んでも正解だし、不正解でもあります。

不遇やアクシデントに対して、上手くかわすとか受け入れるなど微塵も思わず、真っ正面から対峙して、何度も打ちのめされ、傷つきながらも立ち上がり、乗り越えようとしたりする、その一連の態度が『抗う』ということ。『抗う』を選択する人は、若者に多いような気がします。おそらく『抗う』には、そもそも体力的にも、時間的にも余裕が必要な場合が多いからです。そもそも不遇やアクシデントというのは強力な大勢で、その逆をやるというのは、単純に相当なエネルギーが必要ですし、社会的年長者が家庭を持ち家族を養いながらでは中々『抗う』時間をとることはできません。なので『抗う』道を選べるのは、若さの一特性であるのではないかと思います。もっと言えば若い時にしか真に『抗う』ことはできないのではないでしょうか。もちろん『抗い』をしたとて、上手くいく保証などないし、逆に打ちのめされることがあるかも知れません。後から見ればいくらでもやりようがあったと気づくのだけど、その時『抗う』を選ぶ選択をしてしまう無鉄砲性や無計画性が、ある意味での青春の証明なのかもしれません。

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【老練の証明】
しかし他方、不遇やアクシデントに対して、根本的な解決に至らずとも、次点の方法などを使って、いい妥協点を見いだしそれなりにやり過ごす、という態度があります。それが『受け入れる』といこうこと。『受け入れる』の選択をされる方は、年長者に大いにように思います。なぜなら先述の通り、年長者には社会的立場が有り、不遇やアクシデントに対して、体力や時間を浪費できない事情があるからです。人に寄っては『受け入れる』を妥協的で弱腰の態度だと解釈する場合もありますが、私は『受け入れる』は、実は知的に高いカロリーを消費する行為なんではないかと思ったりしています。人間が妥協という次善、次々善の手で納得を勝ち得るには、相当な視点の転換、思考の転換、精神の葛藤を要すると思うからです。視点の転換、思考の転換、精神の葛藤は、知的体力や知的カロリーがないとできません。従って『受け入れる』とは、実はハードな作業なんではないかと思うのです。そしてそれらは、フィジカルに頼りがちな若い人にはできず、一定の人生経験で揉まれた経験のある、老練な年長者にしかできないとも思うのです。

『はるかリフレイン』はそんなことを考えさせてくれる作品です。

はるかリフレイン

はるかリフレイン

【了】


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